ハイアワサ
概要
伝承の中の人。娘たちを殺されて森をさまよい、預言者デガナウィダに出会い、その言葉を部族に伝えて連邦を作った。ロングフェローの詩の主人公とは別の人物。
所属
イロコイ連邦関わったできごと(1)
イロコイ連邦の成立(大平和の法)AD15世紀頃(1142年説もある) · 伝承の中の弁士本文
ハイアワサは伝承の中の人である。北アメリカ北東部、いまのニューヨーク州のあたりに住むイロコイ系の人びとが、自分たちの連邦の成り立ちとして口伝えに語り継いできた物語の主人公の一人で、文字の記録はずっと後、19世紀になってから書き留められた。語り手によって筋も人物の出身も少しずつ違う。ここでは、広く知られた筋をたどる。

物語の時代、五つの部族は互いに争っていた。報復が報復を呼び、殺された者の家族が仇を討ち、それがまた次の仇討ちを生む。最も恐れられたのが、オノンダガの首長タドダホだった。体はねじ曲がり、髪には蛇が絡み、人の心を読み、遠くから人を殺す魔術師として語られる。
ハイアワサはオノンダガの人とされる(モホークの人とする伝承もある)。タドダホに逆らったことで、娘たちを次々に失った。語り手によって、娘は三人とも七人とも言われる。最後の娘が死んだとき、ハイアワサは悲しみのあまり村を捨て、森をさまよった。湖のほとりで貝殻を拾い、それを糸に通して紐を作った。誰かがこの悲しみを慰めてくれたら、この紐を使って言葉を返そう、と考えたが、誰も現れなかった。

そこへ現れたのが、北の湖の向こうから来た預言者デガナウィダだった。人びとは彼をピースメーカー(平和をもたらす者)と呼ぶ。デガナウィダはハイアワサの話を聞き、貝殻の紐を手に取って、慰めの言葉を述べた。涙でふさがった目を拭い、悲しみでふさがった耳を開き、声を失った喉を通す。この言葉が、のちに「慰めの儀式」として、首長が死んだときや新しい首長を立てるときに必ず繰り返される儀礼になった。悲しみを抱えたままでは、正しい判断ができない。まず相手の悲しみを拭うことから話し合いを始める、という考え方である。
デガナウィダは言葉が不自由だったと伝えられる。平和の教えを持っていても、それを人びとに語り伝えることが難しかった。ハイアワサがその言葉を受け取り、各部族に伝える役を引き受けた。
教えの中身は、争いをやめ、一つの法の下に集まれというものだった。二人はモホーク、オナイダ、カユーガ、セネカの各部族を回り、首長たちを説いた。最後に残ったのがタドダホである。二人はタドダホのもとへ行き、慰めの言葉を述べ、その髪に絡んだ蛇を梳いて取り除いた。ねじれた心と体がまっすぐになり、タドダホも連邦に加わった。和解のしるしとして、連邦の会議はタドダホのいるオノンダガで開かれ、タドダホの名はその議長の称号として代々受け継がれることになった。ハイアワサという名を「櫛を作る者」と解釈する説明もある。
こうして生まれたのが、五部族の連邦である(イロコイ連邦の成立(大平和の法))。彼らは自分たちをハウデノサウニー、長屋を作る人びとと呼ぶ。一つの長い家に、いくつもの家族が火を並べて暮らす。五つの部族は、その長屋の中の家族のように一つの屋根の下にいる、という意味になる。東の戸口をモホークが、西の戸口をセネカが守り、中央の火をオノンダガが守る。連邦の象徴は大きな白い松で、その根元に武器を埋めた。50人の首長が会議に座り、首長を選び、ふさわしくなければ退けるのは、氏族の年長の女性たちの役目とされた。のちに南からタスカローラが加わり、六部族の連邦になる(イロコイ連邦)。

連邦が成立した時期はよく分かっていない。15世紀半ばとする説が一般的だが、伝承に出てくる日食を手がかりに12世紀とする説もあり、幅は数百年に及ぶ。
貝殻のビーズを綴った帯(ワンパム)は、約束や法を記憶するための道具として使われた。五部族の結びつきを図柄にした帯は、ハイアワサ・ベルトと呼ばれ、いまも連邦の旗の意匠になっている。
18世紀には、この連邦はヨーロッパの植民者たちの目を引いた。1751年、ベンジャミン・フランクリンは、イロコイの六部族にできることがイギリスの植民地にできないはずがない、という趣旨の手紙を書き、3年後に植民地の代表がオールバニに集まった会議で、植民地の連合案を出している。この連邦が合衆国の憲法の仕組みに影響したかどうかについては、影響を重く見る説と、ほとんど無かったとする説があり、1988年には連邦議会がその貢献を認める決議を出したが、歴史家の間の議論は続いている。
ハイアワサの名を世界に広めたのは、1855年に出たアメリカの詩人ロングフェローの長編詩『ハイアワサの歌』だった。だが、その主人公は、五大湖のオジブワの人びとの伝承に出てくる英雄の話を下敷きにしたもので、イロコイのハイアワサとは別の人物である。響きの良い名前だけが借りられた。そのため、いまでもハイアワサといえば、多くの人が思い浮かべるのはロングフェローの詩の英雄のほうである。