概要
京都嵯峨の豪商角倉家の一族に生まれた。角倉は河川の開削と朱印船貿易で知られる。一族の角倉素庵に学び、明の『算法統宗』を読んで数学に入った。1627年、二十九歳で『塵劫記』を著す。絵を多く入れ、実用と遊びを並べ、版元を変えながら生涯に何度も改訂した。海賊版が横行したため、巻末に答えの無い問題を置いて自著を見分けさせた。それが遺題継承の慣行になった。晩年は失明したと伝えられる。
関わったできごと(1)
塵劫記AD1627年 · 著者本文
**吉田光由**(よしだ みつよし、1598〜1673年)。
**京都、嵯峨**。
**家**。
(——**角倉**(すみのくら)**の一族**である**。
〈**本姓は吉田**。**角倉は、屋号にあたる**。
**吉田光由の家は、その分家である**。〉
**角倉了以**(1554〜1614年)——
〈**——**大堰川、天竜川、富士川を開削した**。
**そして、**高瀬川**を掘って、京都と伏見を結んだ**。
**さらに、**朱印船貿易**で、安南(ヴェトナム)へ渡った**。
**——**「日本のダ・ヴィンチ」**と呼ばれることがある**。〉
**角倉素庵**(了以の子、1571〜1632年)——
〈**——**父の事業を継ぎ、そして、**学問と書の人**である**。
**藤原惺窩**(儒学)に学び、**本阿弥光悦**と組んで、**嵯峨本**(美しい活字本)を作った**。
**——**光由は、この人に、学んだ**。〉)
**学び**。
(**素庵から、**数学と、明の書物**を教わった**。
**そして、**毛利重能**にも学んだ、とされる**。
〈**毛利重能**——**『割算書』**(1622年)の著者。
**「天下一割算指南」**を名乗った**。
**——**関孝和の系譜も、この人に遡る、とされる**。〉)
**種本**。
**『算法統宗』**(程大位、1592年、明)。
(——**当時、中国から入ってきた、算盤の教科書である**。
**光由は、**それを読んだ**。
**そして——**そのまま訳すのではなく、**日本の実情に合わせて、書き直した**。
〈**貨幣が、違う**。**度量衡が、違う**。**そして、**税の仕組みが、違う**。〉)
**『塵劫記』**。
**1627年**。**二十九歳**。
(——**特徴**。
**(1)**絵が、多い**。
〈**——**当時の算術書は、**文字ばかり**である**。
**光由は、**問題の場面を、挿絵にした**。
**〈鼠が増える絵。油を分ける絵。〉**
**——**素庵と光悦の、嵯峨本の系譜が、そこにある**。**〈本の作りが、美しい。〉**〉
**(2)**実用と、遊びが、並んでいる**。
**(3)**そして、**入門から始まる**。
〈**算盤の珠の動かし方から**。〉)
**改訂**。
(——**彼は、**生涯に、何度も、改訂した**。
**〈1627年、1631年、1634年、1641年、1643年……〉**
**理由の一つ——**海賊版**である**。
〈**——**題を真似た偽版が、大量に出た**。
**そして、**中身も、写された**。
**——**当時、**著作権は、無い**。〉)
**遺題**。
**1641年**。
(——**巻末に、**答えの無い問題を、十二問**、置いた**。
**目的**。
〈**(1)**自著と偽版を、見分けさせる**。
**——**「この問題が載っているのが、本物である」**。
**(2)そして、**読者への挑戦**。〉
**——そして、**思わぬ結果になった**。
〈**別の数学者が、**それを解いた本を出す**。
**そして、**自分も、新しい遺題を出す**。
**——**次の人が、それを解く**。
**「遺題継承」**。
**——**約百年、続いた**。
**〈榎並和澄(1641年)、礒村吉徳、村松茂清、そして沢口一之『古今算法記』(1671年)。**
**その遺題十五問を解いたのが、関孝和の『発微算法』(1674年)である。〉**
**——つまり**。
**出版された本の連鎖が、**数学者の共同体の、代わりになった**。
**〈学会も、学術誌も、無い時代に。〉**〉)
**晩年**。
(——**あまり、分かっていない**。
**失明した**、と伝えられる**。
**〈計算と、細かい文字の読み書きを、生涯続けたためだ、と語られることがある。**
**——確証は無い。〉**
**1673年、死去**。**七十五歳**。
**——**嵯峨の**二尊院**に、墓がある**。〉)
**その後**。
(——**『塵劫記』は、**江戸時代を通じて、最も読まれた数学書**であり続けた**。
**そして、**「塵劫記」が、「算術の本」の代名詞**になった**。
〈**——**明治になっても、**そう呼ばれた**。〉
**さらに——**寺子屋の教材**になった**。
〈**——**日本の識字率と、計算能力の高さ**が、**明治の近代化を支えた**、としばしば言われる**。
**その一端に、この本がある**。〉
**そして、いまも**。
〈**——**鼠算、油分け算、継子立て**は、**小学校の算数の教材として、使われている**。
**四百年、同じ問題が、解かれ続けている**。〉)