概要
話す速さで書き取る方法である。キケロの解放奴隷マルクス・トゥッリウス・ティロが体系を作ったとされる。プルタルコスは、カティリナ弾劾に続く元老院の討論で、カトーの演説をこの方法で記録させたのが最初だと書く。約4,000の記号から始まり、中世には13,000にまで膨れた。ローマ帝国の元老院と裁判の記録は、これで取られた。中世の修道院でも使われ、そしてカロリング朝の後に廃れた。ただし ⁊ の記号だけは、アイルランド語の表記に、いまも残っている。
場所
41.89°N 12.49°E · イタリア・ラツィオ州
関わった人(1)
マルクス・トゥッリウス・ティロBC103年頃–BC4年頃 · 体系を作った本文
**必要**。
(——**元老院で、**人が、話す**。
**そして、**それを、記録しなければならない**。
**問題——**普通の文字では、**追いつかない**。
〈**——**ラテン語を、通常の筆記で書くと、**毎分20語ほど**である**。
**——**人は、**毎分120語から150語**で話す**。〉)
**人**。
**マルクス・トゥッリウス・ティロ**。
(——**キケロ家の、**奴隷**として生まれた**。
**そして、**キケロと、ほぼ同年か、やや年下**とされる**。
**〈生年は、BC103年頃とする説があるが、確かではない。〉**
**BC53年、**解放された**。
〈**——**解放されると、**元の主人の氏族名を名乗る**。
**だから、**「マルクス・トゥッリウス」**である**。
**——**キケロと、同じ名になった**。〉
**そして、**秘書であり、書記であり、校正者であり、そして——**
〈**——**キケロの手紙に、彼への言及が、**多数ある**。
**そして、その調子が、**主人が奴隷に向けるものではない**。
**「お前の健康が、わたしにとって、どれほど大切か」**(要旨)。
**——**病気のティロを、**繰り返し、心配している**。
**そして、**弟のクィントゥスも、**兄が彼を解放したことを、喜ぶ手紙を書いている**。〉)
**最初の使用**。
(**プルタルコス『カトー伝』**。
**要旨**——
〈**——**カティリナ弾劾の後、**共謀者の処分をめぐる元老院の討論**(BC63年12月5日)。
**小カトー**が、**死刑を主張して、演説した**。
**——**キケロが、**あらかじめ、書記たちを配置していた**。
**彼らは、**「わずかな短い記号で、多くの文字の力を持つもの」**を、教えられていた**。
**——**そして、**カトーの演説が、記録された**。
**プルタルコスは、こう書く**。
**「これが、**速記者の、最初の例である**と、伝えられている」**。〉
〈**——**プルタルコスは、**二百年後の人である**。
**そして、この記述が、**史実そのままかどうかは、確かめられない**。
**——ただし、**この時期に、元老院の記録が体系的に取られ始めた**ことは、**他の史料とも合う**。
**〈カエサルが、BC59年に、**元老院と民会の議事を公開させた**(acta diurna)。〉**〉)
**記号**。
(——**「ティロ式記号」**(notae Tironianae)。
**構造**。
〈**(1)**基本の記号**——**語幹を表す**。
**(2)**その周りに付ける、**小さな印**——**語尾と、格と、時制を表す**。
**——**つまり、**表語的**である**。
**〈音を書くのではない。**
**——「語」を、一つの形で書く。〉**
**そして、**頻出する語句には、**専用の記号**がある**。
**〈「元老院と、ローマの人民」**(SPQR)のような、決まり文句。〉**〉
**数**。
〈**——**当初、**約4,000**。
**そして、**中世に、**13,000を超えるまで、膨れた**。
**——**覚えるのに、**何年もかかる**。
**〈だから、**専門の職業になった**。〉**〉)
**その後**。
(——**ローマ帝国を通じて、**使われ続けた**。
〈**元老院の議事録**。**裁判の記録**。**そして、**皇帝の口述**。
**——**「ノタリウス」**(notarius)**という職が、成立した**。
**〈——後の「公証人」(notary)**の語源である**。
**そして、当初は、**「速記者」**を意味した**。〉**〉
**キリスト教**。
〈**——**教父たちの説教が、**この方法で、記録された**。
**——**アウグスティヌスの説教の多くは、**話されたものを、速記者が書き取り、後に整えたもの**である**。
**〈だから、口調が、**書いたものと違う**。〉**
**そして、**公会議の議事録**も**。〉
**中世**。
〈**——**カロリング朝で、**復興した**。
**——**アルクィンらが、**古い記号を集めた辞典**を作らせた**。
**そして、**修道院の写字室で、**注釈と、略記に使われた**。
**——**そして、**次第に、廃れた**。
**〈理由の一つ**——**この記号が、**暗号として使える**こと**。
**——魔術と結びつけて、**警戒された**、という説もある。
**確証は無い。〉**〉)
**残ったもの**。
(——**一つの記号が、**生き残った**。
**⁊**
**——**「et」**(そして)を表す、ティロ式の記号である**。
〈**——**「ティロの et」**(Tironian et)。
**そして、これが、**アイルランド語**(およびスコットランド・ゲール語)**の表記に、いまも使われている**。
**「agus」**(そして)を表す**。
**——**アイルランドの、**道路標識**に、これがある**。
**〈Baile Átha Cliath ⁊ Corcaigh。〉**
**——**二千年前の、ローマの速記記号が、**アイルランドの標識の上に、いまも立っている**。〉
**そして、**Unicode に、収録されている**(U+204A)。〉)
**そして**。
(——**話された言葉を、その場で、文字にする**。
**それは、**議会と、裁判と、そして歴史の記録**を、可能にした**。
**〈——**書かれた原稿ではなく、**実際に話されたこと**が、残る。**
**——キケロの演説の多くは、**後から本人が整えた版**である。**
**しかし、その基礎に、**ティロが書き取ったもの**があった。〉**
**——**そして、この技術は、**十九世紀に、ピットマンによって、作り直される**。)