概要
泥に藁や糞を混ぜ、型で成形し、日に干す。焼かないので燃料が要らない。乾いた土地では、何千年も保つ。初期のものは手で丸めた紡錘形で、指の跡が残っている。型を使うようになるのは後である。同じ大きさの塊を大量に作れることが、直線の壁と、階を積むことと、そして工事の見積もりを可能にした。メソポタミアの神殿も、エジプトの住居も、インダスの街も、大部分はこれである。石の建築ばかりが残ったのは、泥の建物が溶けて消えたからにすぎない。
場所
31.87°N 35.44°E · パレスチナ
本文
**作り方**。
(——**泥に、**藁**、あるいは**動物の糞**を、混ぜる**。
〈**——**なぜ、混ぜるか**。
**(1)**乾くときの、**収縮による割れ**を、防ぐ**。
**(2)**そして、**引張に、少し、強くなる**。
**〈——繊維が、**内部で、繋ぎになる**。〉**
**(3)さらに、**乾く速さを、均す**。〉
**——**そして、**型で成形する**。
**——**日に、干す**。
〈**——**数日から、数週間**。
**——**焼かない**。
**そして、**それが、**核心である**。〉)
**焼かないこと**。
(——**焼成煉瓦**は、**燃料を、大量に食う**。
〈**——**摂氏900度以上**で、**何時間も**。
**——**木か、石炭か、そして、糞。〉
**——**そして、**メソポタミアには、**木が、少ない**。
〈**——**だから、**焼成煉瓦は、**極めて、高価だった**。
**そして、**水に濡れる場所**(——基礎、外装、水路の壁)**にだけ、使った**。
**〈——ジッグラトの、外側の一皮だけが、焼成煉瓦である。**
**——中身は、日干しである。〉**〉
**——**日干しなら、**太陽が、ただである**。〉)
**最古のもの**。
(——**イェリコ**(現パレスチナ、ヨルダン川西岸)。
〈**——**BC8000年から7000年頃**(先土器新石器時代)。
**——**手で、丸めて作った、**紡錘形、あるいはパンのような形**の塊**。
**そして、**その表面に、**作った人の、指の跡**が、残っている**。
**〈——親指で、押さえた跡が、平行に並んでいる。**
**——一万年前の、指である。〉**
**——**型を使うのは、**もっと後**である**。
**〈——BC4000年頃から。〉**〉
**そして、**チャタル・ヒュユク**(アナトリア)。
〈**——**BC7500年頃から**。
**——**そして、**この街には、**道が、無い**。
**〈——家が、**壁を共有して、隙間なく、並んでいる**。**
**——出入りは、**屋根から、梯子で**。**
**そして、屋根の上が、**通路であり、広場である**。〉**〉
**さらに、**メヘルガル**(現パキスタン、インダスの前身)**、**そして、中国の仰韶文化**。〉)
**規格**。
(——**型を使うようになると、**同じ大きさのものが、大量に作れる**。
**そして、**それが、**建築を、変える**。
〈**(1)**直線の壁**が、作れる**。
**(2)**厚さと、高さを、**煉瓦の個数で、決められる**。
**(3)そして——**見積もり**ができる**。
**〈——「この壁には、**何個、要るか**」。**
**——粘土板に、**その計算が、書かれている**。**
**〈労働者の人数、日数、そして、支払う大麦の量。〉**
**——建築が、**行政の対象**になった。〉**
**(4)さらに、**煉瓦に、印を押す**。
**〈——王の名。**
**——「ウル第三王朝のウル・ナンムが、これを建てた」。**
**——数千個の煉瓦に、同じ印が押されている。**
**〈スタンプである。〉**
**——そして、それが、**年代を決める、重要な手がかりになっている**。〉**〉
**寸法**。
〈**——**メソポタミアで、**時代によって、標準の寸法が、変わる**。
**——**そして、それが、**考古学者にとって、年代の指標になる**。
**〈——ウルク期の「リーメン煉瓦」(Riemchen、細長い角柱)。**
**——ジェムデト・ナスル期の、平凸煉瓦(片面が膨らんでいる)。**
**——そしてウル第三王朝の、正方形の煉瓦。〉**〉)
**寿命**。
(——**乾いた土地では、**極めて、長く保つ**。
〈**——**イェリコの壁**が、**残っている**。
**そして、**エジプトの、**中王国時代の日干し煉瓦の壁**も**。
**——**条件**。
**〈(a)**基礎が、石か焼成煉瓦で、**地面からの水を、切っている**。**
**(b)**屋根と、庇が、**壁を、雨から守っている**。**
**(c)そして、**表面に、**漆喰を塗って、保護する**。**
**——そして、**定期的に、塗り直す**。〉〉**
**——**しかし、**放置すれば、溶ける**。
〈**——**雨で、**流れる**。
**そして、**土に、戻る**。
**——**これが、**遺跡の「テル」**(丘)**が、できる理由である**。
**〈——街が、崩れて、土になる。**
**その上に、また街を建てる。**
**——それが、**何十層も、積み重なる**。**
**——テルを掘ると、**層になった、街の歴史**が、出てくる。〉**〉)
**そして、失われたもの**。
(——**われわれが、**古代を、石の建築として、思い描く**のは、**
**石が、残ったからである**。
〈**——**ピラミッド。パルテノン。コロッセウム**。
**——**そして、**その周りにあった、**圧倒的多数の、泥の家**は、**消えた**。〉
**——**古代エジプトの、**神殿は、石**である**。
**そして、**王宮も、住居も、**日干し煉瓦**である**。
〈**——**「死者の家は、永遠に。生者の家は、しばらく」**という言い方が、なされる。〉**
**——**そして、**シュメールの神殿も、バビロンも、そしてモヘンジョダロも、**大部分は、泥である**。〉)
**いま**。
(——**世界の人口の、**約三分の一**が、**土で作られた建物に、住んでいる**、という推計がある**。
〈**——**アフリカ、中東、中央アジア、インド、南米**。
**——**そして、**アメリカ南西部のアドベ**。〉
**そして、**再評価されている**。
〈**(1)**製造に、**エネルギーが、ほとんど要らない**。
**〈——コンクリートと焼成煉瓦の、**製造時の二酸化炭素排出**は、極めて大きい。**
**——セメント産業は、**世界の排出の、約7〜8%**を占める。〉**
**(2)**熱容量が、大きい**。
**〈——厚い土の壁は、**昼の熱を溜め、夜に出す**。**
**——砂漠の気候に、合っている。〉**
**(3)そして、**地元の材料である**。
**——**輸送が、要らない**。〉
**——**弱点**。
〈**——**地震**。
**——**日干し煉瓦の建物は、**地震に、極めて弱い**。
**〈——2003年、イラン、バム。**
**——推定3万人以上が死んだ。**
**そして、その多くが、**日干し煉瓦の家の崩壊**による。〉**
**——**耐震の補強**(——繊維の網、控え壁、そして軽い屋根)**の研究が、進められている**。〉)