概要
竹や木の小さな棒を、机や布の上に並べて計算する。縦横で位を交互に表し、空いた桁は場所を空ける。位取りの十進法が、記号ではなく物の配置として先に成立していた。赤い棒を正の数、黒い棒を負の数に使い分ける。負の数を実際の計算に用いた、世界で最も早い例である。連立方程式は係数を格子状に並べて解いた。行列の消去法と同じ手続きが、そこにある。宋代に算盤へ、そして数字の記法へ引き継がれた。
場所
34.27°N 108.95°E · 中国・陝西省西安
本文
**物**。
**算木**(さんぎ、中国語では**算籌**さんちゅう)。
(**竹、あるいは木、骨、象牙**。
**長さ——**約13センチ**(後に、約9センチ、そして更に短くなる)。
**断面——**円、あるいは四角**。
〈**発掘されている**。
**——**陝西省、湖北省、そして各地の漢墓から**。
**最古のものは、**戦国時代**(BC5〜3世紀)に遡る**。
**そして、**『漢書』律暦志**に、寸法の規定がある**。〉
**持ち歩く**。
〈**筒に入れて、腰に下げた**。
**——**「算袋」**。〉)
**並べ方**。
**縦式と横式を、交互に使う**。
(**一の位——**縦**。
**十の位——**横**。
**百の位——**縦**。
**千の位——**横**。
——**なぜか**。
〈**隣り合う桁を、**見分けるため**である**。
**|||| と |||| が並んでいたら、**どこで切れるか分からない**。
**|||| ≡ なら、**分かる**。〉
**そして、**1から5は、棒の本数**。
**6から9は、**一本を横(あるいは縦)に置いて5を表し、残りを足す**。
〈**縦式で、6は「⊥」に近い形**。
**——**5を表す一本が、上に横たわる**。〉)
**空位**。
(——**そこを、**空ける**。
**つまり——**位取りが、物の配置として、成立している**。
〈**「ゼロ」という記号は、無い**。
**しかし、**「そこに何も無い」という位置**が、ある**。
**——これは、**記号としてのゼロとは、別のことである**。
**しかし、**位取りの原理としては、同じである**。〉
**後に、**空位に丸(○)を書く**ようになった**。
〈**書き記すとき**である。**——並べているときは、空けるだけでよい**。
**宋代の書物に、○が現れる**。〉)
**負の数**。
(——**赤い棒を、正**。
**黒い棒を、負**。
〈**あるいは、**棒を斜めに置く**ことで、負を表した**。〉
**——これが、**極めて早い**。
**『九章算術』**(1世紀頃)に、**正負の加減の規則**が、明確に書かれている**。
**「正負術」**。
〈**同符号なら足し、異符号なら引く**、という規則が、言葉で述べられている**。
**——**ヨーロッパで負の数が正面から受け入れられるのは、**17世紀以降**である**。
**カルダーノ(16世紀)が「架空の数」と呼び、パスカルが「0から4を引くことはできない」と書いた**。
**——**千五百年の差がある**。
**理由の一つ**。
〈**中国の数学は、**帳簿と実務**から出た**。
**——**借りと貸し**。**過不足**。
**「マイナス」が、**日常の意味を持っていた**。〉〉)
**方程式**。
(——**係数を、**格子状に並べる**。
**そして、**列同士を、掛けたり引いたりして、消していく**。
**「方程術」**(『九章算術』第八章)。
〈**——これは、**現代のガウスの消去法と、実質的に同じ手続きである**。
**そして、**その過程で、**負の数が、必然的に出てくる**。
**だから、**負の数の規則が、必要だった**。〉
**——つまり**。
**「机の上に、行列を並べて、掃き出している」**。
**〈算木を並べる布を、**算板**という。**——事実上の、計算の作業台である。〉**)
**限界**。
(**(1)**場所が要る**。
〈**大きな数、複雑な計算では、**机一面に広がる**。
**——**持ち運びながら、では、できない**。〉
**(2)**遅い**。
〈**並べ替えるのに、時間がかかる**。〉
**(3)**記録が、残らない**。
〈**——並べ終わって、崩せば、消える**。
**だから、**途中経過を、書き写す必要があった**。〉)
**算盤へ**。
(**宋代(10〜13世紀)から、**算盤(そろばん)**が、次第に置き換えた**。
〈**理由——**速い**。**場所を取らない**。**そして、**商業の計算に向いている**。
**——特に、**掛け算と割り算**が、速い**。〉
**明代には、**算木は、ほぼ使われなくなった**。
**——そして、**算木でしかできなかったこと**が、失われた**。
〈**方程式の解法(天元術、四元術)**は、**算木を前提としている**。
**——**元代の朱世傑**が、四元(四つの未知数)まで扱った**。
**そして、**明代には、それが読めなくなっていた**。
**——**清代に、**古典として再発見された**。〉)
**日本**。
(——**算木は、**日本では、逆に、江戸期まで生き延びた**。
**関孝和の**傍書法**と**点竄術**は、**算木の並べ方から出て、それを紙の上の記号に移したもの**である**。
〈**中国で失われた天元術が、**朝鮮を経て日本に伝わり**、そこで独自に発展した**。
**——**和算**である**。〉)
**そして**。
(——**いま、算木を使う人は、ほとんどいない**。
**しかし、**位取りの十進法**は、そこから来ている**。
**そして、**漢数字の「一 二 三」**と、**縦式の算木の形**は、**同じものである**。
〈**そして、**「四」以上は、算木の形から離れた**。
**——**四本の棒を数えるのが、面倒だったからである**、とされる。〉)