前田利家
概要
尾張荒子。信長の小姓。「槍の又左」。同朋衆を斬って追放され、桶狭間で無断で戦って戻された。柴田の下で北陸、賤ヶ岳で秀吉に寝返って加賀を得た。妻まつ。五大老。秀吉の死後、家康を抑える唯一の人で、秀吉の8か月後に死んだ。加賀100万石。
本文
1539年、尾張の荒子(いまの名古屋市中川区)で、小さな城を持つ土豪・前田利春の四男として生まれた。生年には1537年や1538年とする説もある。幼名は犬千代。十代の半ばで織田信長に小姓として仕えた。背丈は六尺(180センチ)近くあったと言われ、派手な身なりで町を歩く「かぶき者」で、長い朱塗りの槍を振るって戦場で手柄を立て、「槍の又左(又左衛門)」と呼ばれた。

若い頃の利家は、主君の信長を怒らせて一度すべてを失っている。1559年、信長に仕える同朋衆の拾阿弥が、利家の刀の笄(こうがい)を盗んだ。利家は信長に処罰を求めたが聞き入れられず、信長の目の前で拾阿弥を斬り殺した。信長は激怒し、利家は出仕を止められて浪人になった。
翌1560年、今川義元が大軍で尾張に攻め込むと、利家は許しを得ないまま桶狭間の戦いに加わり、首を取って戻った。それでも信長は許さなかった。さらに翌年、美濃の斎藤氏との森部の戦いで、敵の名のある武者の首を挙げて、ようやく帰参を許された。この浪人の日々に、人の心の移ろいを知ったと、後年の利家は語ったと伝えられる。

帰参した利家は、信長の親衛隊にあたる赤母衣衆の筆頭となり、1569年には信長の命で兄に代わって前田家を継いだ。姉川、長篠などの戦いに加わり、1575年、越前の一向一揆を平定したあとは、柴田勝家の与力として越前府中に3万石余りを与えられた。佐々成政、不破光治とともに「府中三人衆」と呼ばれ、北陸の攻略を担った。1581年には能登一国を与えられ、七尾に入った。北陸は、加賀の一向一揆以来、一向一揆の力が根を張る土地で、その平定には長い年月がかかった。
1582年、本能寺の変で信長が死ぬと、織田家の重臣は柴田勝家と羽柴秀吉に割れた。利家は、上司の勝家と、若い頃から家族ぐるみで付き合ってきた秀吉の間に立たされた。利家の妻まつと、秀吉の妻ねね(のちの北政所)は親しく、利家の娘の一人は秀吉の養女になっていた。
1583年、近江の賤ヶ岳の戦いで、利家は勝家の側に陣を敷いたが、戦いの最中に兵を引いて戦場を離れた。勝家の軍はこれで崩れた。北ノ庄へ逃れる途中、勝家は利家の守る府中城に立ち寄り、湯漬けを所望して、これまでの労をねぎらい、秀吉と仲良くするよう言い残して去った、と伝えられる。利家はそのまま秀吉に降り、北ノ庄城攻めの先鋒を務めた。勝家は城で妻のお市とともに自害した。

秀吉は利家に加賀の二郡を加え、利家は金沢城に移った。翌1584年、秀吉と家康が争った小牧・長久手の戦いのさなか、家康方についた越中の佐々成政が能登の末森城を攻めると、利家は自ら救援に駆けつけてこれを退けた。かつての同僚との戦いだった。
その後の利家は、秀吉の天下統一(秀吉の天下統一)を支える重鎮になった。九州や小田原の陣に従い、朝鮮出兵の際には肥前名護屋に在陣した。晩年の秀吉は、利家を徳川家康と並ぶ大老とし、幼い秀頼の傅役(守り役)を託した。家康が関東250万石を持つのに対し、利家の領地は加賀・能登・越中を合わせても80万石ほどで及ばなかったが、信長以来の長い経歴と人望で、大名たちの重しになった。

利家は算盤を手放さなかったことでも知られる。陣中にも持ち歩いたという算盤が、前田家に伝わっている。若い頃に浪人して金の大切さを知ったからだ、とも言われ、倹約家であった。
1598年8月、豊臣秀吉が死んだ。家康は秀吉の遺言で禁じられていた大名どうしの縁組を勝手に進め、利家は他の大老や奉行とともにこれを詰問した。両者の間は一時、戦になるかと思われるほど緊張したが、1599年2月に利家が伏見の家康を訪ね、翌月には家康が大坂の利家を見舞って、和解の形が取られた。このとき利家はすでに重い病の床にあった。
1599年閏3月3日、利家は大坂の屋敷で死んだ。62歳だった。その直後、加藤清正や福島正則ら七人の武将が、利家という抑えを失ったのを機に石田三成を襲おうとした。三成は伏見に逃れ、家康の仲裁で奉行の職を退いた。豊臣家の中の亀裂は、利家の死とともに表に出たのである。翌年の関ヶ原の戦いへ、事態は一気に進んでいく。

後を継いだ長男の利長は、1599年秋に家康から謀反の疑いをかけられた。前田家は戦うことも考えたが、未亡人のまつ(芳春院)が自ら人質として江戸へ下り、家を守った。まつは15年近く江戸で暮らした。関ヶ原で東軍についた利長は加賀・能登・越中の三国を与えられ、前田家は120万石に近い、江戸時代を通じて最大の外様大名になった。「加賀百万石」と呼ばれるその家は、明治まで続く。金沢の尾山神社は、利家とまつを祀っている。