概要
チャーナキヤ、ヴィシュヌグプタ。タクシラの教師で、ナンダ朝の王に侮辱されて、チャンドラグプタを見つけて育て、ナンダ朝を倒させ、マウリヤ朝を作らせた、と伝える(『ムドラーラークシャサ』の劇、仏教とジャイナ教の伝承)。『実利論』の著者かどうかは分からない(AD2〜3世紀の編纂、という説)。「インドのマキャヴェッリ」。目的のためには何でも。しかし「臣民の幸福」を王の目的にした。
所属
マウリヤ朝本文
名前が3つ。カウティリヤ(「クティラ(曲がった)」から、と言われる。氏族名クティラの子孫、とも)、チャーナキヤ(父チャナカの子)、ヴィシュヌグプタ(本名)。
伝承(仏教の『マハーヴァンサ』の注、ジャイナ教の『パリシシュタパルヴァン』、ヒンドゥーの『ヴィシュヌ・プラーナ』、そして劇『ムドラーラークシャサ』(ヴィシャーカダッタ、AD4〜8世紀))。それぞれ違う。
大筋。タクシラのバラモンの学者。マガダ国のナンダ朝の王ダナ・ナンダの宮廷で侮辱された(施しの席で、容貌が醜いと言われて追い出された、あるいは髪を掴んで引きずり出された)。髪の房(シカー)を解いて、「ナンダを滅ぼすまで結ばない」と誓った。青年チャンドラグプタ(身分の低い出、あるいはナンダの庶子、あるいはモーリヤ族)を見つけて(村で子供たちと「王様ごっこ」をしているのを見た、と伝える)、育て、タクシラで教育し、軍を集め、初め中央を攻めて負け(「熱い粥を、真ん中でなく縁から食べる子供」を見て、辺境から攻めることを学んだ、という話)、辺境から、ナンダ朝を倒して、マウリヤ朝を作った(BC321年頃)。宰相。セレウコスとの講和(BC303年頃、インダスの西を得て、象500頭を渡した)。
『アルタシャーストラ(実利論)』。「アルタ」は財、利、目的。人生の四つの目的(ダルマ=法、アルタ=実利、カーマ=愛欲、モークシャ=解脱)の一つ。15巻、150章、180節、約6000のスートラ。
内容。(1)王の教育と日課(1日を1時間半ずつ16に分ける。夜明け前に起きて、収入と支出を聞き、大臣と会い、沐浴と食事、書簡、密偵の報告、休息、軍の視察、夜に密偵、就寝)。(2)大臣の選び方と試験(「4つの誘惑の試験」——法、利、愛、恐れで試して、動かない者を最高の職に)。(3)密偵(9種類。学生、遊行者、農夫、商人、苦行者、そして「毒を盛る者」。女の密偵(乞食尼、娼婦、踊り子)。密偵は互いを知らない。「王は、千の目を持つ」)。(4)行政(都市の設計、市場の監督、度量衡、通行税、鉱山、森林、灌漑、造船、貨幣、公務員の給与表)。(5)法(民法、刑法、契約、婚姻、相続、労働。刑罰は残酷)。(6)外交(「マンダラ(円)」理論。隣国は敵、隣国の隣は味方、その隣は敵の味方。「六つの政策」=和平、戦争、待機、進軍、同盟、二面政策。「王は、強い者には従い、等しい者とは戦い、弱い者は攻める」)。(7)戦争(陣形、象、間諜、暗殺、離間、毒、宣伝)。(8)王の身の守り方(毒味、毒を見分ける方法——毒を入れた食物は火にくべると青い煙と音を出し、鳥は落ち、鸚鵡は鳴く。後宮の管理。「王は、息子を、蟹が父を食うように、警戒せよ」)。
「王の幸福は、臣民の幸福にある。王にとって善なのは、臣民が善とするもの。王の好むものが善なのではない」(1巻19章)。
同時に、飢饉のときは「国庫のために、金持ちから取り上げよ」「秘密の手段(毒殺)で敵を除け」「異端の教団の財産を取り上げるために、密偵を僧に化けさせよ」。
「インドのマキャヴェッリ」(マックス・ウェーバー「マキャヴェッリの『君主論』は、これに比べれば無害だ」)。マキャヴェッリより1800年早い。
著者と成立。伝統的には、チャーナキヤ(BC4世紀)の作。20世紀の文献学は、AD1〜3世紀の編纂(複数の層。カウティリヤの名は権威づけ)と考える人が多い。トリヴェディ(1955年)の統計、オリヴェル(2013年)の分析。「BC1世紀からAD2世紀の間に、既存の材料をもとに、一人の編者が」。
写本。19世紀まで、名前だけが知られて、本は失われていた。1905年、マイソールの図書館員R・シャーマシャーストリーが、タンジャーヴールのバラモンから寄贈された貝葉写本(南インドのグランタ文字)の中に見つけた。1909年、校訂本。1915年、英訳。インドの民族主義者が喜んだ(「インドにも政治学があった」)。
チャーナキヤの晩年。伝承は分かれる。チャンドラグプタの息子ビンドゥサーラの時代に、讒言で退いて、断食して死んだ、あるいは焼き殺された、と。
ニューデリーの外務省のある通りは「チャーナキヤプリー」(外交官街)。インドの戦略研究の本は、いまも彼を引く。