← 地図で見る
Event / できごと

種苗と育成者の権利

Plant breeders' rights
AD1961年12月2日
重要度 4
ソビエト連邦グリーンランドアルジェリアポルトガル帝国サウジアラビアイランリビアマリニジェールエジプトモーリタニアトルコスウェーデンノルウェーフランスフィンランドスペインイラク大英帝国ポーランドモロッコイタリアWest GermanyイギリスYugoslaviaルーマニア西サハラシリアアイスランドCzechoslovakiaチュニジアEast GermanyブルガリアギリシャハンガリーオーストリアアイルランドヨルダンAD1961年12月2日パリ
このできごとには、まだ自由に使える図版が見つかっていません。 代わりに、このデータベースが持っているAD1961年12月2日の版図を描いています(38勢力)

概要

新しい品種を作るには、時間と金がかかる。しかし、種は殖える。誰かが一袋買えば、翌年から自分で殖やせる。1961年、パリで植物新品種保護条約が結ばれ、育成者に排他的な権利が与えられた。当初は、農民が自家採種することは認められていた。1991年の改定で、その例外が各国の裁量になった。以後、種苗の権利をめぐる対立が続いている。企業は開発の費用を回収できなければ品種を作れないと言い、農民と途上国は、種を自分で採る権利は数千年の慣行だと言う。

場所

パリ
48.86°N 2.35°E · フランス

本文

**問題**。

**新しい品種を作るには、時間と、金がかかる**。

(**交配し、選抜し、試験し、そして安定するまで——10年から15年**。

〈果樹では、20年以上かかることがある。〉)

**しかし——種は、殖える**。

(**誰かが、一袋買えば、翌年から、自分で殖やせる**。

そして、隣に分けられる。

——**開発した側は、最初の一袋の代金しか、受け取れない**。)

(**これが、他の技術と、決定的に違う点である**。

機械なら、複製するのに費用がかかる。

**種は、自分で複製する**。**それが、種の本質である**。)

**それまで**。

**数千年、農民は、自分で種を採ってきた**。

(**自家採種**。

——収穫の一部を、翌年の種に取っておく。

そして、**その中から、良いものを選ぶ**。

〈これが、**作物の多様性を作ってきた**。数千年、地域ごとに、少しずつ違う品種が育った。〉)

**19〜20世紀の変化**。

**(1)育種が、科学になった**。

(メンデルの再発見(1900年)。そして、体系的な育種。)

**(2)ハイブリッド**(一代雑種、F1)。

**1920〜30年代、とうもろこし**。

(**異なる系統を掛け合わせた第一代が、両親より優れる**(雑種強勢)。

**しかし——その種を採って蒔くと、第二代は、ばらばらになる**。

——**つまり、毎年、種を買わなければならない**。

〈**これは、法的な保護ではなく、生物学的な仕組みによる「保護」である**。

**種苗会社にとって、極めて都合がよかった**。

そして、アメリカのとうもろこしの収量は、実際に飛躍的に上がった。〉)

**(3)そして、他の作物では、ハイブリッドが作れない**。

(小麦、大麦、米、豆——**自家受粉する作物**では、この方法が使いにくい。

——**だから、法的な保護が、求められた**。)

**先行**。

**1930年、アメリカ、植物特許法**。

(**無性繁殖する植物**(挿し木と接ぎ木で殖やすもの)に限って、特許を認めた。

——**果樹と、バラである**。

〈トマス・エジソンが、この法律を支持したことが知られている。「**この法律は、バーバンクが与えたよりも大きなものを、世界に与えるだろう**」。

**ルーサー・バーバンク**——アメリカの育種家。生涯に800以上の品種を作り、そして**ほとんど報酬を得られなかった**。〉)

**UPOV**。

**1961年12月2日、パリ**。

**植物の新品種の保護に関する国際条約**。

(フランス語の略称——**UPOV**(Union internationale pour la protection des obtentions végétales)。

——**当初の加盟は、西ヨーロッパの数か国である**。

〈発効は1968年。〉)

**内容**。

**育成者権**(plant breeders' rights)。

**特許とは、別の、独自の制度である**(sui generis)。

**保護の条件**(**DUS**と呼ばれる)。

- **区別性**(Distinctness)——既存の品種と、明確に区別できる。 - **均一性**(Uniformity)——同じ品種の個体が、揃っている。 - **安定性**(Stability)——世代を重ねても、性質が変わらない。

そして、**新規性**(未販売であること)。

**権利の内容**。

**育成者が、その品種の種苗の、生産と販売を、排他的に管理できる**。

**期間——原則20年から25年**(樹木はより長い)。

**二つの例外**(1961年および1978年の条約)。

**(1)育種家の例外**(breeder's exemption)。

**他の育種家が、その品種を、新しい品種を作るための素材として、自由に使える**。

(——**極めて重要である**。

**特許なら、これはできない**。

**育種は、既存の品種を素材にして進む**。素材を囲い込めば、育種そのものが止まる。)

**(2)農民の特権**(farmer's privilege)。

**農民が、収穫の一部を、翌年の自分の畑に蒔くことは、権利の侵害にならない**。

(——**1961年と1978年の条約では、これが、明示的に認められていた**(あるいは、そもそも権利の範囲外だった)。)

**1991年、改定**。

**ここで、変わった**。

**(1)農民の特権が、「任意の例外」になった**。

(——**各国が、認めるかどうかを、決められる**。

**認める場合も、「合理的な範囲内で、育成者の正当な利益を守ることを条件に」**とされた。

〈つまり、**認めなくてもよい**。あるいは、**認めても、料金を取ってよい**。〉)

**(2)権利の範囲が、広がった**。

(種苗だけでなく、**収穫物**、そして場合により**加工品**にも及びうる。)

**(3)「実質的に派生した品種」**(EDV)という概念が入った。

(——**元の品種を、わずかに変えただけの品種**は、元の育成者の権利に従う。

〈育種家の例外の、抜け穴を塞ぐためである。同時に、その範囲の解釈が、争点になっている。〉)

**対立**。

**推進する側の論拠**。

- **開発の費用を回収できなければ、誰も、新しい品種を作らない**。 - そして、**育種は、収量と、耐病性と、栄養を改善してきた**。 - 投資がなければ、**気候の変動に対応する品種**も、できない。

**反対する側の論拠**。

- **種を採る権利は、農業そのものと同じくらい古い慣行である**。 - **小規模な農民が、毎年、種を買えるとは限らない**。 - **在来品種の多様性が、失われる**。

(**UPOVの保護の条件が、「均一性」と「安定性」を要求する**。

——**在来品種は、均一ではない**。だから、**そもそも保護の対象にならない**。

〈**この制度は、産業的な育種の産物だけを保護する構造になっている**、という批判である。〉)

- そして、**遺伝資源の由来**。

(**新しい品種は、途上国の在来品種を素材にして作られる**ことが多い。

**素材を提供した側には、権利がない**。

〈**バイオパイラシー**の議論。〉)

**関連する枠組み**。

**(1)生物多様性条約**(1992年)と、**名古屋議定書**(2010年)。

(**遺伝資源に対する、原産国の主権**を認め、**利益の配分**を定めた。

——**方向が、逆である**。UPOVは育成者の権利を、CBDは提供国の権利を、それぞれ強める。)

**(2)食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約**(2001年、ITPGRFA)。

(**多国間のシステム**。64の主要な作物について、共通の「箱」を作り、そこから自由に取り出せる代わりに、商業化した場合に利益を配分する。

そして——**第9条**。

**「農民の権利」**。

伝統的な知識の保護、利益の配分への参加、そして——**種子を保存し、利用し、交換し、販売する権利**。

〈**ただし、この条文は、「各国の法に従って」という限定が付いている**。

——**実効性が、弱い**。〉)

**(3)WTO・TRIPS協定**(1994年)。

**第27条3(b)**。

加盟国は、**植物の品種を、特許か、独自の制度か、その組み合わせで、保護しなければならない**。

(——**保護しない、という選択肢が、なくなった**。

そして、多くの途上国が、**UPOV1991年条約への加入を、二国間の貿易協定の条件として求められた**。

〈アメリカとEUとの、自由貿易協定の交渉で。

——**この点が、繰り返し批判されている**。〉)

**日本**。

**1978年**、種苗法(現行の形は1998年)。UPOV加盟。

**2020年、種苗法の改正**。

(**登録品種**について、**自家増殖に、育成者の許諾を必要とする**ようにした。

〈それまで、原則として、農家の自家増殖は自由だった。〉

**理由として政府が挙げたもの**——**日本で育成された品種**(いちご、ぶどう、さつまいも)が、**海外へ無断で持ち出され、栽培されている**。それを防ぐ。

**反対の論拠**——農家の負担が増える。そして、**海外への流出は、この改正では実際には止められない**(国内法は、国外には及ばない)。

〈**議論は、決着していない**。

——なお、**在来種と、登録されていない品種(一般品種)**は、従来通り、自由に自家採種できる。日本で栽培される品種の大半は、一般品種である。〉)

**そして**。

**種は、殖える**。

**それが、この問題の、すべての原因である**。

同じ時代のできごと

AD1961年の世界を地図で見る国境・できごと・生きている人が、その年のものに入れ替わります