概要
AEGとBASFが、紙とプラスチックの帯に酸化鉄を塗った磁気テープと、録音機マグネトフォンを発表した。円盤と違い、長時間を切れ目なく録れ、そして切って貼れる。戦中のドイツ放送は、深夜に生演奏に聞こえる番組を流し、連合国の情報部を困惑させた。1945年、アメリカ軍の通信兵ジャック・マリンが装置を持ち帰る。ビング・クロスビーが番組の事前録音に使い、放送が生でなくてよくなった。編集という行為が、音に対して可能になった。
場所
52.52°N 13.40°E · ドイツ
本文
**前史**。
(**1898年、**ヴァルデマール・ポールセン**(デンマーク)。
**「テレグラフォン」**。
〈**——**鋼鉄の線**に、磁気で、音を記録する**。
**——**1900年、パリ万博で、**フランツ・ヨーゼフ皇帝の声を録音した**。
**〈——現存する、最も古い磁気録音である。〉**
**そして、**音質が、悪い**。
**そして、**線が、絡む**。
**——**普及しなかった**。〉)
**そして、円盤**。
(——**20世紀前半、**録音といえば、**円盤(レコード)**である**。
**問題**。
〈**(1)**長さ**。
**——**片面、**三分から五分**。
**〈78回転盤。〉**
**——**それ以上、録れない**。
**(2)**編集が、できない**。
**——**一発録りである**。
**〈演奏を、止められない。**
**——間違えたら、最初から。〉**
**(3)**マスターを作ると、**やり直せない**。〉)
**ドイツ**。
**1928年、**フリッツ・プフロイマー**(ドレスデン)が、**紙の帯に、鉄の粉を塗る**特許を取った**。
(——**彼は、**煙草の巻紙に金箔を貼る技術**を持っていた**。
**——**「同じやり方で、磁性体を塗れる」**。〉)
**1932年から、**AEG**(電機)と、**IG ファルベン/BASF**(化学)が、**共同で開発した**。
(——**AEGが、**録音機**。
**BASFが、**テープ**。
**——**紙から、**酢酸セルロースの、プラスチックの帯**へ**。
**そして、**塗るのは、**カルボニル鉄**、後に、**酸化鉄(γ-Fe₂O₃)**。〉)
**1935年、**ベルリン国際無線展**。
**「マグネトフォン K1」**。
(——**発表された**。
**そして——**音質が、まだ、良くない**。
〈**——**ノイズが、多い**。
**そして、**歪む**。〉)
**そして、交流バイアス**。
**1940年から41年**。
(——**ヴァルター・ヴェーバー**(ドイツ帝国放送)が、**発見した**。
〈**——**録音するとき、**音の信号に、**耳に聞こえない高い周波数の信号**を、重ねる**。
**——**すると、**磁化の特性の、曲がった部分を、避けられる**。
**——**歪みが、劇的に減り、**周波数の範囲が、広がる**。〉
**——**これで、**音質が、円盤を、超えた**。
〈**周波数——**50Hzから10kHz**、後に、さらに広がる**。
**そして、**ダイナミックレンジが、大きい**。〉
〈**——**同じ原理は、**1938年に、日本の永井健三と五十嵐悌二**が、**独立に、発見していた**。
**そして、**アメリカのカールソンとカーペンター**(1921年)も、偶然、これに触れていた**。
**——**しかし、**実用化して、放送に使ったのは、ドイツである**。〉)
**戦時中**。
(——**ドイツ放送が、**これを使い始めた**。
**そして、**連合国が、困惑した**。
〈**——**深夜に、**フルオーケストラの演奏**が、放送される**。
**——**「生放送」の音質である**。
**しかし、**深夜に、楽団が演奏しているとは、考えにくい**。
**——**「録音なのか。しかし、あの音質は、円盤ではない」**。
**そして——**ヒトラーの演説が、**複数の都市から、同時に流れる**ことがあった**。
**——**「どこにいるのか、分からない」**。
**〈これは、**軍事的に、意味がある**。〉**〉)
**1945年**。
(——**アメリカ陸軍通信隊の、**ジャック・マリン**(John T. Mullin)。
**——**ドイツのバート・ナウハイム近郊の放送局で、**マグネトフォンを、二台、見つけた**。
**そして、**分解して、部品として、アメリカへ送った**。
〈**——**戦利品として、**正式な手続きで、持ち帰った**。
**そして、**テープを、五十巻**。〉
**1946年、**サンフランシスコで、**組み立て直して、実演した**。
〈**——**聴いた人々が、**「生演奏だ」と思った**、と記録されている**。〉)
**ビング・クロスビー**。
(——**当時、**アメリカで、最も人気のある歌手の一人**である**。
**そして、**ラジオ番組を、嫌っていた**。
〈**理由——**生放送**である**。
**——**週に二回、**同じ時間に、スタジオにいなければならない**。
**〈東海岸と西海岸で、時差がある。**
**——同じ番組を、二回、演らされた。〉**
**そして、**ゴルフに行けない**。
**——**彼は、**「録音でやりたい」**と、繰り返し要求した**。
**そして、**放送局が、拒んだ**。
**〈——当時、**円盤による録音の音質が、悪すぎる**。
**そして、「録音放送は、質が低い」という業界の常識があった。〉**
**——**彼は、**一年、番組を降りていた**。〉
**1947年、**マリンの実演を、聴いた**。
**——**その場で、決めた**。
〈**——**自分の番組を、**すべて、テープで、事前に録ることにした**。
**そして、**アンペックス社**(当時、小さな電機会社)に、**5万ドルを、出資した**。
**〈——テープレコーダーを、作らせるため。〉**
**1948年、**アンペックス200**。
**——**アメリカの、放送用テープレコーダーの、最初の標準機になった**。〉)
**編集**。
(——**そして、**ここが、**本当の変化である**。
**テープは、**切れる**。
**そして、**貼れる**。
〈**——**剃刀で、斜めに切る**。
**そして、**粘着テープで、つなぐ**。〉
**——**できるようになったこと**。
〈**(1)**失敗した部分を、**取り除く**。
**(2)**複数のテイクの、**良いところを、つなぐ**。
**(3)**順番を、**入れ替える**。
**(4)そして、**時間を、伸び縮みさせる**。〉
**——**「編集」**という行為が、**音に対して、可能になった**。
〈**——**それまで、**録音は、**その場で起きたことの、記録**だった**。
**——**これ以後、**録音は、**作られるもの**になった**。〉)
**その先**。
(**1954年、**レス・ポール**が、**多重録音(オーバーダビング)**を、テープで実現した**。
〈**——**アンペックスに、**八トラックの機械を作らせた**。
**——**一人で、何本ものギターを、重ねる**。〉
**そして、**1960年代**。
〈**——**ビートルズの『サージェント・ペパー』**(1967年)。
**——**四トラックの機械を、**二台つないで**、複雑な多重録音をした**。
**そして、**テープを、逆回しにし、**速度を変え、**切り貼りした**。
**——**「スタジオが、楽器になった」**。〉
**そして、**カセットテープ**(1963年、フィリップス)。
**ビデオテープ**(1956年、アンペックス)。
**そして——**コンピュータの、記憶装置**。
〈**——**1951年、UNIVAC I**。
**——**磁気テープを、**データの記録に、使った**。
**そして、**それが、**1980年代まで、主要な記憶媒体だった**。
**——**いまも、**大量のデータの長期保存には、磁気テープが使われている**。
**〈LTOテープ。**
**——一巻に、数十テラバイト。**
**そして、電源が要らない。〉**〉)