概要
コンゴ東部の湖畔で、ヒヒの腓骨が見つかった。長さは十センチほどで、先端に石英の破片が埋め込まれ、彫るための道具だったと見られる。側面に刻み目が三列。それぞれの列の数には規則らしきものがあり、素数の並びだ、十進法の掛け算だ、月の満ち欠けを数えたものだと、さまざまに論じられてきた。どれも決め手がない。確かなのは、二万年前の誰かが、何かを一つずつ刻んで数えたことである。数えた対象は、失われた。
場所
-0.13°N 29.60°E · コンゴ民主共和国・エドワード湖畔
本文
**見つかったもの**。
(**1950年**。
〈**——**ベルギーの地質学者**ジャン・ド・エインゼリン**が、**発掘した**。
**——**場所は、**エドワード湖の、北の岸**。
**〈——いまの、**コンゴ民主共和国**。**
**——ヴィルンガ国立公園の中。〉**
**——**湖畔に、**漁をして暮らす人々の、**小さな集落の跡**があった**。
**——**そして、**火山の灰に、**埋もれていた**。〉
**——**骨**。
〈**——**長さ、**十センチほど**。
**——**ヒヒの、**腓骨**である**。
**——**そして、**先端に、**石英の破片**が、埋め込まれている**。
**〈——だから、**彫るための道具**だったと、見られている。〉**
**——**いま、**ブリュッセルの、自然科学博物館にある**。〉
**——**年代**。
〈**——**当初、**六千年から九千年前**とされた**。
**——**その後、**測り直され、**二万年ほど前**とされている**。
**——**これでも、**幅がある**。〉)
**刻み目**。
(——**三列ある**。
〈**——**それぞれの列が、**いくつかの束に、分かれている**。〉
**——**中央の列**。
〈**——**3、6、4、8、10、5、5、7**。
**——**3の次が6**。
**——**4の次が8**。
**——**10の次が5**。
**——**倍にして、半分にする、という読み方ができる**。〉
**——**左の列**。
〈**——**11、13、17、19**。
**——**10から20のあいだの、**素数が、全部、揃っている**。〉
**——**右の列**。
〈**——**11、21、19、9**。
**——**10+1、20+1、20−1、10−1**。
**——**十を、**軸にしている**ように、見える**。〉
**——**そして、**左と右の列は、**合計が、それぞれ、六十**である**。
〈**——**中央は、**四十八**。〉)
**読み方**。
(——**いくつも、提出された**。
〈**(1)**掛け算の表**である**。
**〈——ド・エインゼリン自身の見立て。〉**
**(2)**そして、**素数を、知っていた証拠**である**。
**〈——だが、**素数という概念**が、**そこにあったと考えるのは、飛躍が大きい**。〉**
**(3)さらに、**月の満ち欠け**を、数えたものである**。
**〈——アレクサンダー・マーシャックの説。**
**——六十日は、**およそ二か月**。**
**——月経の周期を、**女性が、数えたのだ**という説も、これに繋がる。〉**
**(4)そして、**十二進法の、痕跡**である**。
**(5)さらに、**ただの、**数取り**である**。
**〈——獲物の数。**
**——日数。**
**——あるいは、**取引の記録**。〉〉**
**——**どれも、**決め手がない**。
〈**——**同じ数の並びは、**いくらでも、解釈できる**。
**——**そして、**比べる相手が、無い**。
**〈——似た骨は、**他にもある**。**
**——チェコの**ヴォルフの骨**(三万年前ごろ、五十五の刻み目、五ずつの束)。**
**——南アフリカの**レボンボの骨**(四万年以上前、二十九の刻み目)。**
**——だが、**どれも、一点物**である。〉〉**
**——**慎重な見方**。
〈**——**近年は、**「数学の証拠」**として語ることに、**懐疑的な論調が強い**。
**——**刻み目の一部が、**摩耗と、区別しにくい**という指摘もある**。
**——**そして、**列の区切り方**そのものが、**解釈である**。〉)
**確かなこと**。
(——**誰かが、**刻んだ**。
〈**——**一つずつ**。
**——**そして、**束に、分けた**。〉
**——**それだけで、**十分に、大きい**。
〈**(1)**数を、**対象から、切り離した**。
**〈——羊がいなくても、**刻み目は、そこにある**。〉**
**(2)**そして、**残した**。
**〈——記憶ではなく、**物**に。〉**
**(3)さらに、**束にした**。
**〈——一つずつ数えるのではなく、**まとめて、扱う**。**
**——それが、**位取り**([[gupta-decimal]])の、遠い出発点である。〉〉**
**——**そして、**何を数えたかは、**失われた**。
〈**——**数だけが、**残った**。
**——**数は、**何のためのものかを、**自分では、語らない**。
**〈——これは、**[[quipu]]でも、**同じことが起きている**。**
**——数の部分は、解けた。**
**——何の数かは、分からない。〉〉)**
**残ること**。
(——**「アフリカ最古の数学」**という言い方で、**しばしば、紹介される**。
〈**——**その言い方には、**別の背景がある**。
**——**数学の歴史が、**長く、ギリシアから始まると、書かれてきた**。
**——**それに対する、**訂正としての意味**が、この骨に、載せられている**。〉
**——**ただし**。
〈**——**証拠を、**必要以上に、読み込むのは、**同じ過ちの、裏返しである**。
**——**分からないことは、**分からないままにして、**それでも、置いておく**。
**——**この骨が、**そういう置き方をされている**のは、**正しい**。〉)